本のチカラで九州を元気に!九州の社長1000人の図書館

蔵書詳細

現在の蔵書
1
1000冊まであと
999

蔵書詳細記事詳細

株式会社千鳥屋本家  代表取締役社長  原田実樹宣の人生を変えた1冊

「坂の上の雲」司馬遼太郎 著

坂の上の雲にみる、「歴史から学ぶ平常心の経営」

この本に出会ったきっかけは?

大学1年生のとき、一日一冊本を読もうと決めたんです。小説なら簡単に読めるだろうし。歴史小説を読もうと決めてはいたのですが、数ある歴史小説のなかで何から読めばいいだろうかと思ったとき、先輩から進められた司馬遼太郎の『坂の上の雲』にしようと思ったんです。

一日一冊読書の記念すべき一冊目の本だったのですね。

そうですね。高校時代は地理と世界史しか学んでいなかったので、日本史をちゃんと学んでいないことがコンプレックスだったんです。そういうのを埋めたいなと思って、近現代史が題材になっている小説を選びました。

歴史は昔からお好きだったのですか?

父が古代史好きで、小さいころ吉野ヶ里遺跡などによく連れて行かれたんですね。
実際掘ったりもしていました。掘ったらツボのかけらとか出てきて、それをこっそり持ち帰ったり(笑)
その影響で考古学、歴史に興味が出だして大学は東大の文三に行きました。教養学部なので文学の先生など色んな先生がいましたが、そのなかでもやっぱり歴史って面白いなと改めて感じて、本格的に歴史を勉強し始めたんです。
元々西洋に憧れていたので、塩野七生さんとかは好きで読んでいましたが、小説としての面白さはやはり司馬遼太郎が一番だなと思い、今回この一冊を選びました。

この本のどんなところが魅力的でしたか?

やはり小説としてのスリリングさ、そして物語に没頭させるような話の持って行き方が魅力ですね。どんどんのめりこんで行きました。
簡単にいうと日本が日露戦争で勝つ話なんですが、松山の秋山兄弟と正岡子規が一校、いわゆる現在の東大に入学して、戦争に突入していって…とすごく物語に血肉が通っているんですね。東京での貧乏生活なんかも描かれているんですが、自分も東京で貧乏生活を送っていたので、すごく共感できるところもあったり(笑)
実際の歴史に基づいていますし、「こういう人たちがこんな生き様を生き抜いてきたんだな」ということをありありと感じられました。主人公の秋山兄弟や正岡子規以外にも、乃木希典や東郷平八郎なども魅力的に描かれていて、「実際に会ってみたい!」と感じさせるような臨場感があります。
中でも東郷平八郎の生き様には感動しましたね。元々優秀なほうではなかったのですが、艦長に大抜擢されて活躍する。戦前には神格化されていますが、東郷平八郎の薩摩人的というか、黙っていてもやるときはやる、というような人間性に憧れて自分もそんな人になりたいなと思ったものです。

確かに歴史は教科書のように事象だけを追っていても面白くないですよね。実際その事象の中にどんな思いや物語がつまっているかということが大事で、それは事象だけ眺めていてもわからない。

大学時代の先生が言っていた言葉ですが、「歴史書には絶対的な真実というものはない」と。
歴史の書物というのはすべて解釈であって、人の解釈によって変わっていく。歴史が変わるごとに歴史書も変わっていく。勝てば官軍というように、負けたほうの歴史は抹殺されてしまう。だから、見る人によって解釈はまったく違うものになってくるのだと。
この本はあくまで司馬遼太郎さんの解釈ですが、その解釈に日本人が共感したからこそこれだけのヒット作になったんだと思います。ここが歴史家と違うところで、自分の考え、解釈をずばり表現しているところが面白いですね。
それにこれは戦争を題材にした物語ですが、司馬さんは決して戦争を美化しようとはしていないんですね。やはり戦争はしてはいけないと思われているだろうし、そういう哲学みたいなものが随所に出ています。

この本を読んで、その後の人生にどんな影響を受けましたか?

純粋にこの本が面白かったから「人生を変えた1冊」に選んだ、というのもありますが、日露戦争に日本は勝利したが、勝つことがはたしてよかったのか、という解釈を持ったことですね。これはあくまで僕の解釈ですけど。
というのも勝つとタガがゆるむんです。
商売でもなんでもそうですが、商売だと儲かりすぎると無鉄砲な多角化経営をしだしたりと、感覚がおかしくなってしまう所もある。
日露戦争で勝利して、東郷平八郎が神格化されて、軍国主義にどんどんどんどん突っ走っていって…
日露戦争の手法でやれば勝てるんだと勘違いして、結局世界大戦まで突き進んでしまった。ロータリーなどで大正生まれの人の話など聞くこともありますが、やはり日露戦争で勝ったのがおかしかったという人もいらっしゃいます。
だから僕は、本当の人間の勝利とはなんだと思ったわけです。「勝って兜の緒を締めよ」という言葉もあるように、勝って間違った幻想をつくってしまったら、結局逆じゃないかと。本当の勝利からどんどん遠ざかっていっているのではないかと思うのです。
戦争でも商売でもそうですが、人対人じゃないですか。
相手があってのことだから、好き放題はできない。傲慢になってもいけない。商いをやっているとつくづくそう思います。そういうことの戒めとして、考えさせられる部分がありました。そういう意味で、いまでも自分の人生を変えた一冊だと思っています。

なるほど、千鳥屋の経営は坂の上の雲、日露戦争の教訓に基づいているわけですね。

そうですね。うちは「勝っても負けても堅実経営」です(笑)
日本は日露戦争に勝ったことで、どんどん妄想が膨らんでいき、戦争をやめるにやめられない状態になってしまった。
だからこそ、人間は勝っても負けても平常心でいなければならないと思います。
負けたときのほうが、売上が悪いときのほうが学ぶことは多いんです。一生懸命がんばりますから。そういった苦労を知らないと、いつかしっぺ返しにあいます。
失敗したときこそ学ぶことがあって、勝ったときはひたすら謙虚に。
勝ったときこそ、原点、昔の苦労を思い返して「本当の勝利は何か」を考えることが大事だと思います。読んでいた当初は気づかなかったけれど、改めて思い返すとそういった哲学が詰まった本で、いつの間にかその影響を受けていたことに気づきました。

最後にこの本をどんな方に読んでもらいたいですか?

これから起業を目指す人や、若手の経営者に読んでもらいたいですね。明治時代のひたむきな向上心や、エネルギーを感じられますから。この時代の主人公たちはとてもイキイキしています。この小説のおかげでいろんな縁の地に行きたいなと、そしていろんな歴史的な由来のあるところに行きたいなと思うようになりました。
実際にあったことですから、そういったリアリティというか、ただの小説でなくて、リアルに生きた人たちの思いを司馬遼太郎さんの小説を通して感じることができるところが魅力ですね。昔の人たちも今の人達も、結局は生き方が大事なんだなと実感させられます。
弊社がある福岡にもいたるところに歴史的な遺物があって、その一つひとつに由来や意味があります。人は知らず知らずのうちに歴史のなかで生きていますので、そんなことに興味を持つ人がもっと増えたらいいなと思います。

原田実樹宜社長プロフィール

1977年生まれ。修猷館高校卒業後、東京大学文科三類に進学。平成22年に株式会社千鳥屋本家代表取締役社長に就任。「シンプルで美味しい、永く愛されるお菓子作り」を目指し、シュガーロードの研究と普及にも情熱を燃やしている。趣味は音楽で、大学時代に同級生たちとジャズやソウルに傾倒し、Earth,Wind&Fireの大ファン。ベースをはじめとした楽器も演奏し、現在はロータリーでハーモニカの団体に所属し、老人ホームへの慰問なども行っている。
取材後、お土産に同社の看板商品「千鳥饅頭」をいただきました。原田社長、ありがとうございました!

ページ先頭へ